コミッショナーの仕事は事務的に処置することだけなのか…モヤモヤ感が募る中田翔の巨人移籍問題
2021年9月23日 10時01分
◇ヘンリー鈴木のスポーツ方丈記
プロ野球の斉藤惇コミッショナーが22日、中田翔の移籍問題について初めて口を開いた。オンラインによるオーナー会議後、記者の質問に答えた。
中田翔は日本ハムに所属していた8月4日、DeNAとのエキシビションマッチの試合前に後輩選手に暴力行為。選手が球団に訴え、11日に無期限の出場停止処分を科されたが、わずか9日後の同20日に巨人が無償トレードで獲得。処分は解除され、翌21日には試合出場した。
巨人に移籍した時は筆者のもとにも「暴力の罪も移籍すれば消えるのか」「少なくとも今季は出場停止とするべき」「これでは子どもたちの模範とならない」など多くの意見が寄せられ、「プロ野球を見るのが嫌になった」という声もあった。それから1カ月がすぎたが、プロ野球の「法の番人」でもあるコミッショナーの見解は、暴力に対するプロ野球全体の姿勢を示す上でも重い。以下は、斉藤コミッショナーの談話である。
「コミッショナーという立場であの案件にどのようなアクションをとるかは限定されていて、私が向こうから出された出場停止を伝達(公示)すること、向こうが解除する申請書を出してきたので、それを開示すること。これがルールにのっとったコミッショナーの仕事で、それ以上に、内容に私が介入することはあの案件に関しては発生していない。したがって私は淡々とルールに従って事務的な処置をした」
確かに野球協約第60条(1)には「球団、あるいはコミッショナー、又はその両者によって出場停止処分を科された選手は、コミッショナーにより出場停止選手として公示され、出場停止選手名簿に記載される」とあり、斉藤コミッショナーの対応はこれにならっただけかもしれない。
ただ、コミッショナーの職権及び職務を定めた同協約第8条には「この協約又はこの協約に基づく規程に反する事実があるか又はそのおそれがあるとの心証を抱くときは、調査委員会に事実を示してその調査を委嘱し、その結果についての処分意見を得て、自らの名において関係者に制裁を科する」ともある。そのような事例は「発生していない」とした斉藤コミッショナーの判断は、果たして正しいのか。
米大リーグでは不均衡なトレードや不正に対して、コミッショナーがトレード無効などの制裁を下した例が多くある。アストロズのサイン盗み疑惑に対してマンフレッド・コミッショナーが調査に乗りだし、2020年1月に監督とGMに「1年間の職務全面停止」を、球団には今後2年間のドラフト1巡目、2巡目の指名禁止と罰金500万ドル(約5億5000万円)など厳罰を科して、社会の信頼を保ったことは記憶に新しい。
一方で日本は、少子化やスポーツの多様化で野球人口減少の危機感が増しているにもかかわらず『暴力行為も他球団に移籍すれば短期間で処分は解除される』の悪しき前例を残した。これでは不信感は増すばかりだろう。モヤモヤ感は晴れぬままである。
◆ヘンリー鈴木(鈴木遍理) 東京中日スポーツ報道部長、東京新聞運動部長、同論説委員などを経て現東京中日スポーツ編集委員。これまで中日ドラゴンズ、東京ヤクルトスワローズ、大リーグ、名古屋グランパス、ゴルフ、五輪などを担当。
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