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<美のありか>木工の神髄 黒沢明を魅了「拭漆楢彫花文椅子(ふきうるしならちょうかもんいす)」黒田辰秋(豊田市美術館蔵)

2025年4月22日 17時18分 (4月22日 19時48分更新)
 「王様の椅子」と称される、木目が美しい肘かけ椅子。昭和の木工漆芸の大家黒田辰秋(1904~82年)が、映画界の巨匠黒沢明のために制作した家具セットの1脚だ。還暦を迎えた円熟期の代表作と呼ぶにふさわしい風格が漂う。静岡県の別荘に置かれたその椅子に触れた者は、誰もが手のひらの感触を確かめるようになでたという。(帯田祥尚)

「拭漆楢彫花文椅子」1964年 高さ128.5センチ 幅80.5センチ 奥行き85センチ 豊田市美術館蔵

 使われた木材は岐阜県の旧付知(つけち)町(今の中津川市)のナラ。椅子の材料として一般的なケヤキよりも水分を多く含み、反りやひびが生じやすいため扱いが難しい。だが、そうした癖を見抜き、その木に特有の味わいを生かせば、線の美しさが際立つ造形に仕上がる。そこに黒田の真骨頂がある。椅子を所蔵する豊田市美術館(愛知県)の学芸員西崎紀衣さんは「肘かけの曲線はあらゆる角度から見て映える」と言う。
 〈黒田氏は、常々、木の声を聞くと云(い)って居(お)られる。そして、その声を聞いて、その木のなりたい形に造って行くのが木工の心構えだと〉(黒沢明「気迫・風格にじむ拭漆(ふきうるし)」朝日新聞社編『黒田辰秋 人と作品展』)
 黒沢を魅了した黒田の技に「拭き漆」がある。木材に塗った漆をへらや布で拭き取っては塗る作業を何度も繰り返す。木にたっぷりと漆を吸わせることで、つやの中に鮮やかな木目が表れる。従来は表面を保護するための技法にすぎなかったが、黒田が積極的に用いたことで、木そのものの美しさを引き立てる効果に注目が集まった。
 黒田は京都で漆を扱う塗師(ぬし)の家に生まれた。父亀吉は漆器の蒔絵(まきえ)のために下塗りを手がける腕利きの職人。受け継いだ漆芸は木工芸と深く結びついている。

漆の技

「赤漆捻紋蓋物」1949年 高さ19.6センチ、幅23.2センチ、奥行き20.8センチ 豊田市美術館蔵

 光沢を放つひねり模様が連なる小物入れ「赤漆(あかうるし)捻紋(ひねりもん)蓋物(ふたもの)」にその技が凝縮している。黒田は強い赤みとややオレンジがかった赤の中間にある微妙な色合いを「赤漆」と呼び、漆と顔料を混ぜる調合から一貫して担った。

自然の美を人の手で

「耀貝螺鈿総張飾手筥」1974年 高さ18.4センチ、幅30.5センチ、奥行き15.5センチ 豊田市美術館蔵

 青や緑の複雑なきらめきがまぶしいのはメキシコアワビをふんだんに用いた「耀貝(ようがい)螺鈿(らでん)総張(そうばり)飾(かざり)手筥(てばこ)」。細かく割った貝のかけらを漆で貼り合わせた装飾は、天然の材料を組み合わせる人の技によって、自然の美の豊かさを強調する趣向だ。
 

 黒田辰秋は木工芸の分野で初の人間国宝(1970年)。「拭漆楢彫花文椅子」、「赤漆捻紋蓋物」、「耀貝螺鈿総張飾手筥」は豊田市美術館で開催中の「生誕120年 人間国宝 黒田辰秋 木と漆と螺鈿の旅」(中日新聞社共催)で見ることができる。5月18日まで。月曜休館(4月28日、5月5日は開館)。


 黒田は生前、「作品が存在する限り、それを作った責任を負いつづけなければならない」という覚悟と誇りを持ち続けた。その成果は...

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