「稼ぐ女は可愛くないよ」と笑った彼。会社がなくなり、私の稼ぎに助けられた2カ月
昇進の報告に返ってきた言葉
同棲して2年になる彼は、印刷会社で働いていました。私は広告の営業をしていて、担当を少しずつ増やし、後輩の案件も引き受けてきた末の主任昇進でした。その夜、彼に伝えました。
「主任になったの。お給料も少し上がるんだ」
缶ビールを開けてから、彼は辞令に目を落としました。
「稼ぐ女は可愛くないよ」
そう言って笑った顔は、いつもの冗談を言うときと同じ。私は言い返す言葉を探すより先に、流しで皿を洗い始めていました。
会社がなくなると告げられて
それから1カ月ほどたった頃、彼が玄関で靴を脱ぐ前に言いました。
「会社、今月で閉めるって」
大口の取引先が離れ、社長が事業をたたむと決めたそうです。家賃の引き落としは、翌月も変わらずやってくるものでした。私はすぐに言いました。
「家賃は私が払っておくね」
「悪い」
返ってきたのはそれだけでした。光熱費を払った日も、食材を多めに買って帰った日も、彼の返事は「悪い」のまま。夕飯は向かい合って食べるものの、話しかけても「うん」と短く返されて会話が続きません。食べ終えるとすぐ、彼はノートパソコンを抱えて奥の部屋へ入りました。
閉じたドアの前で
昇進を伝えたあの日の笑い声を、何度も思い出しました。稼ぐ女が可愛くないなら、その給料で暮らしている今をどう思っているのか。お礼の言葉を待っているのかどうか、自分でもよく分からなくなっていました。「悪い」と言うときの彼は、私の顔ではなく床のあたりを見ていました。
彼がスーツ姿で出かけていく日も、何度かありました。行き先は言わず、帰ってくるとまた奥の部屋へ。閉じたドアの前を通るたび、ノックしかけた手を下ろしました。
そして...
会社が閉まって2カ月ほどたった頃の夕飯で、彼のほうから新しい就職先が決まったと話してくれました。こんなに長く彼の話を聞いたのは、久しぶりのことです。
最初の給料が出た日、彼はテーブルに白い封筒を置きました。
「助かった。ありがとう」
中にはお札と、日付と金額が並んだメモ。家賃と光熱費に加えて、私が買ってきた食材の代金まで書き出してありました。見覚えのある、右上がりの彼の字です。
引き出しから、裏返したままだった辞令のコピーを出して、封筒の隣に置きました。彼の視線が紙の上で止まり、それから私の顔に移りました。
辞令を見せたあの日、どうしてあんなふうに私を笑ったのか。封筒を受け取った今も、その答えだけはまだ聞けていません。
(20代女性・営業職)
本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。
(ハウコレ編集部)
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