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<ほんの裏ばなし>巨匠の魅力 理屈抜きで『小津安二郎 粋と美学の名言60』(双葉文庫)

2025年4月22日 15時30分 (4月22日 20時00分更新)
『小津安二郎 粋と美学の名言60』双葉文庫

『小津安二郎 粋と美学の名言60』双葉文庫

  • 『小津安二郎 粋と美学の名言60』双葉文庫
  • 著者の米谷さんと米国で英訳された『CHASING OZU(小津を追いかけて)』(手前(右))。赤いハンカチは遺族から譲り受けた小津の遺品だという=東京都新宿区の双葉社で
 現在の三重県松阪市などで多感な10代を過ごした小津安二郎(1903〜63年)。映画界の巨匠がのこした言葉を『小津安二郎 粋と美学の名言60』にまとめた米谷紳之介さん(愛知県蒲郡市出身)に、世界が称賛する小津映画の魅力や出版の経緯を尋ねた。(聞き手・帯田祥尚)

著者 米谷紳之介さんが明かす

 この本は2014年に出した『老いの流儀 小津安二郎の言葉』(環境デザイン研究所)が基になっているんですけど、その増補版を今回文庫化するにあたって、小津と原節子の写真をカバーに使いました。『老いの流儀』を出した後に見つかった写真で、『東京物語』(1953年)の撮影中に、小津が原節子の目元に綿棒で涙を際立たせるワセリンを塗っているところです。
 この本にも書いたんですけど、小津は初めて原節子と会った時に顔が赤くなって「節ちゃんて美人だなあ」とぼそっと言ったという逸話があって。2人の関係はよくうわさになっていたんですよね。そういう2人の間に何かがあったことを暗示しているというか。
 しかもこれは『東京物語』で原節子演じる紀子が、笠智衆演じる義理の父にいとまを告げる一番の見せ場のシーンです。そこで女優の顔にワセリンを塗る。普通の監督はそこまでしませんよ。うそっぽいっていうか、作り物になってしまう。でもそういう不自然さも小津の魅力だと思うんです。
 僕が小津を好きになったのは中学2年の時にテレビで見た『東京物語』がきっかけなんです。同じクラスの映画好きの友達から「おまえも映画が好きっていうんなら見ろよ」と言われて。その時は「家族ってこんなもんかな」と思ったくらいでした。
 高校1年の時に祖父が亡くなったんですけど、危篤になったと聞いた時に、陸上部の大事な試合があって行けなかったんですよ。遅れて祖父の家に駆けつけたら亡くなった後で。祖父の顔に白い布がかけてあって親戚が集まっていて。「ああ、間に合わなかったんだ…」と思った瞬間に、「あれ、これどっかで見たことある」とひらめいたんですね。
 それが『東京物語』だと気づいたのは、大学時代にあらためて名画座で見てからです。作り込まれた小津の映画は記憶に残るようにできているんですね。一つ一つ完成された絵の構図が連続していく。せりふだって分かりやすいことしか言っていない。だけどその間口の広い世界に入っていくと奥は深い。絵本とか童話に近い。だからこれだけ魅せられちゃったのかなと。
 そういう面白さを伝えるために小津の言葉を手がかりにしたのは、松竹の人からのアドバイスです。「小津がのこした言葉を取り上げたらどうですか?」と。それこそ生前のインタビューや映画のせりふまで材料は膨大にありますから。
 僕の大学時代の映画好きの友人が「小津に限らず映画の本はなんだか理屈っぽくて最後まで読み通せない」と言っていたんですね。
 だったら僕は「最後まで読める入門書」を作りたいと。刊行後、僕のインスタグラムに「初めて最後まで読むことができた小津の本です」とメッセージをくれた人がいて、とてもうれしかったですね。友人は感想を聞く前に亡くなりましたが、彼との約束を少しは果たせたような気がしています。 
 (双葉文庫・792円)

 こめたに・しんのすけ 1957年、愛知県蒲郡市生まれ。文筆家、編集者。映画やプロ野球に関する書籍に多数携わる。主な著書に『銀幕を舞うコトバたち』(本の研究社)。構成・執筆を務めた書籍に『短期決戦の勝ち方』(野村克也著、祥伝社)、『侍役者道』(千葉真一著、双葉社)がある。

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