小日向文世 役者人生の転機になった「青りんご」 舞台の魅力に気付かされ…熟れて売れた47歳
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【過去と未来の交差点】「コヒさん」の愛称で親しまれ、コミカルからシリアスまでどんな役も自由自在に演じ分ける俳優の小日向文世(72)。芝居の原点は小学校の学芸会で覚えた快感にあった。そして、礎となっている舞台活動を支えているのは、23歳から19年間所属した劇団の座長からの果物を比喩に用いた言葉だった。(山内 健司)
「僕の転機?いっぱいあるよ。話すと止まらなくなっちゃうよ」。ほほ笑みながら次々と語る姿は朗らかなイメージそのままだ。
「僕は『HERO』から動き始めた」
一つの転機は木村拓哉主演のフジテレビドラマ「HERO」(2001年)に出演したこと。とぼけた検察事務官役を演じ、47歳で時の人になった。東京・渋谷のセンター街ではギャルに「うわあ!あー!」と指をさされ、長男の幼稚園入園式では記念写真を頼まれたほど。「俳優・小日向が一気に認知された」と振り返る。
この好機を得たのは偶然ではなかった。23歳で劇団「オンシアター自由劇場」に入団。「早く映像の世界にも行きたい」とドラマや映画への出演に憧れていたが、最初は裏方の仕事ばかり。思い立って座長の串田和美氏(83)に「映像の仕事したいからやめます」と伝えると、役者人生の大きな転機となる一言を言われた。「熟す前の青いりんごを海に捨てるようなもんだぞ。腐るだけだぞ」。この言葉が47歳でのブレークまでの支えとなった。
「不思議な魔力を感じました。おかげで踏みとどまり、舞台の面白さがどんどん分かってきた」。劇団時代に串田氏の言葉を自分の女性ファンに伝えたところ、一時期ファンクラブ「青いりんごの会」が結成されたという小話もある。劇団解散まで19年間、憧れていたテレビをいつしか見なくなるほど舞台漬けに。「お客さんが生で喜ぶ姿がまぶしかったです」と懐かしんだ。
この感覚の原点は小学生の学芸会だった。「1年生の初めての劇は猿役」で、2年生の時に演じたのは「こぶとりじいさん」の悪いじいさん。「両頬にこぶがついて泣いたところで幕が下りる。トリですよ!」と声のトーンが上がる。「拍手をもらえて気持ちよかった」と今も鮮明に覚えている。高校卒業後、北海道から上京した時は俳優志望ではなかったが、デザインや写真の専門学校を経ながらも「俳優をやろう」と思った背景には、小学生で味わった快感があった。
劇団で活躍しても、当時は外の仕事につながりにくい時代。解散で仕事が激減した。「42歳から借金生活、凄いでしょ?食べられない時代が圧倒的に長かったから怖くなかった」。劇団時代の後輩だった妻にも焦りはなかった。「2人でお金なくて暇だねって言いながら子供たちと過ごしてて、家族だんらんという意味では最高でした」
腐らずに続けていた舞台で潮目が変わった。三谷幸喜氏演出の「オケピ!」(00年)の演技が「HERO」の制作陣の目に留まった。まさにりんごが赤みを帯びた瞬間。借金生活からも抜け出した。
以降、憧れ続けてきた映像の仕事に引っ張りだこだ。実は年齢を考え引き際が頭をよぎったことも。だが、昨年3月放送のTBSドラマ「わが家は楽し」で仕事を共にした石井ふく子氏(99)、山田洋次氏(94)、岩崎加根子(93)らに触発された。「90歳超えで現役バリバリ…。“疲れた”“そろそろ”とは言えないね」と気を引き締めた。
今、りんごの状態はどうか。「一番おいしい時はとっくに過ぎてるでしょ!もう押すとグニュ~って。でも、それはそれで味があると思うんです」。唯一無二の俳優へ。熟れてなお、輝きを増していく。
≪実体験と重なる借金生活≫放送中のテレビ朝日ドラマ「リボーン~最後のヒーロー~」(火曜後9・00)では、寂れた商店街の商工会会長役。IT社長の主人公(高橋一生)がうり二つの長男に転生してくる14年前の世界では、借金がありながらも陽気に過ごしている。「借金生活でも明るかった自分とどこかかぶりますね」と笑った。「意外とおっちょこちょいな役」とも紹介し「説得力を持たせたい」と意気込む。一度借金が消えるも、高級腕時計を買ったり女性に貢いだりして再び借金を背負う場面も。それでもどこか可愛らしい姿に「憎めない」との声が多く、視聴者の心をつかんでいる。
◇小日向 文世(こひなた・ふみよ)1954年(昭29)1月23日生まれ、北海道出身の72歳。東京写真専門学校を卒業後、77年に「オンシアター自由劇場」に入団。96年の解散まで中核的存在として活躍。04年に映画「銀のエンゼル」に初主演。主な出演作に「あしたの、喜多善男」「アウトレイジ ビヨンド」など。2人の子供がおり、ともに俳優。1メートル64、血液型O。
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