NHK連続テレビ小説「ブラッサム」 作家の宇野千代さんをモデルにした理由

[ 2026年9月27日 10:00 ]

宇野千代さんをモデルにした連続テレビ小説「ブラッサム」の主人公・葉野珠(石橋静河)(C)NHK
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 【牧 元一の孤人焦点】昭和の時代に活躍した作家の宇野千代さんはとても面白い人物だ。小説「色ざんげ」「おはん」、100万部を超えるベストセラー「生きて行く私」。日本初のファッション雑誌「スタイル」の創刊。着物のデザインと販売。多額の借金の返済。数回の結婚と離婚。突然の同棲。旺盛な好奇心と行動力。享年98。創作で人物設定したら、現実味に欠けると思われそうだが、実在した女性だ。

 そんな宇野さんをモデルにした主人公・葉野珠を俳優・石橋静河(32)が演じるNHK連続テレビ小説「ブラッサム」が9月28日にスタートする。

 今なぜ宇野さんなのか?ドラマの制作統括・村山峻平さんはこう答えた。

 「100歳ライフと言われる時代です。でも、一人一人が多様性を持って長く生きていくのはなかなか大変なことです。その指針が今の世の中に示されていない気がします。98歳まで生きた宇野さんはとても大変な人生を送ったと思いますが、最後まで咲き誇っていました。自分を肯定し、自分を大切にして生きていくのは良いことだと言うドラマがあってもいいのではないかと思いました」

 宇野さんの類いまれな資質を表すこんな実話がある。30代の頃、男女の心中のことを小説に書こうとした。取材対象に定めたのは、実際に心中を図って未遂に終わった洋画家の東郷青児さんだった。東郷さんに指定された酒場に行くと、自宅に誘われ、深夜になってそこで寝ることになった。東郷さんが押し入れから出した布団には、血痕がついていた。心中未遂の証拠。それでも宇野さんは帰宅の途につかなかった。そのまま東郷さんの家に住み、東郷さんが体験したことを詳細に聞き続けた。それで完成させたのが、代表作のひとつ「色ざんげ」。これは極端な例だが、宇野さんの人生には、朝のドラマで描くのが難しそうな話がいくつもある。

 村山さんは前提としてこう話した。

 「私たちが作ろうとしているのは葉野珠という主人公のオリジナルドラマです。宇野さんの人生を完全に再現したいわけではありません」

 その上で宇野さんをモデルにしたドラマを作る意味合いをこう説明した。

 「宇野さんが書かなかった部分を描きたい。宇野さんはいろんな作品に自分のことを書いていますが、自分がその時どうだったのかということをあまり出していません。85歳の時の『生きて行く私』は俯瞰(ふかん)的な視線で書いていて『こんなことがあったけれど、こんなふうにやり切りました』という感じ、読む人にエネルギーを与えるために『平気ですよ』という感じになっている。でも、絶対に平気だったはずがない。何か事が起きた時、そこにヒリヒリした感情があったはず。それを描きたいと思いました。恋愛に関しては、要素のひとつに過ぎないと考えています。葉野珠が出会いと別れを繰り返して何を得るのか。どうやって85歳の俯瞰にたどり着くのか。それを丁寧に描くドラマです。宇野さんが残した作品とは別の物語の見え方あると思います」

 高齢になった葉野珠を演じる俳優・加賀まりこ(82)は9月7日のメディア向け試写会の際にこう語った。

 「宇野さんのような、自由闊達に生きた女性を主人公に選んだNHKの判断が中途半端にならないように、しっかり作ってほしい。中途半端に、きれい事にしないことだけを心から祈っています」

 全く同じ思いだ。

 村山さんはこの発言についてこう語った。

 「ありがたい言葉です。人が厳しい心情に追い込まれるところを描くことこそがドラマで、そういう芝居の場を作ってほしいというメッセージだと思っています。そのことを受け止めて初回からやらせていただいていますが、改めて鼓舞してもらいました」

 いよいよ物語の幕が開く。その内容は壮絶で壮大なものになるはずだ。宇野さんの豊潤な人生をより深く感じられるような、見ると活力がわくような作品になることを切に願う。

 ◆牧 元一(まき・もとかず) スポーツニッポン新聞社編集局文化社会部。テレビやラジオ、音楽、釣りなどを担当。

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