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小学5年生息子がオンラインゲームで夜も寝ず 「対戦型は終わりがない」母の不安的中

2026年8月3日 19時09分 (8月20日 18時11分更新)
 「息子が人間じゃなくなる」
 母の心配は最高潮に達した。まだ小学5年生なのに、夜も寝ずにオンラインゲームをやり続ける息子。横に置いた食事には、手をつけた跡もない。好物のグラタンやハンバーグを用意しても、翌朝までそのまま残っている。
 目は真っ赤。ガリガリに痩せてあばらが浮き出ていた。「ご飯食べなさい」「早く寝なさい」。心配してかける母の声はまるで届いていない。力ずくでゲームをやめさせようものなら物にあたり、家の壁に穴が一つ、また一つと増えた。「これがいわゆる『ゲーム依存』…うちの息子はまさにそうなってしまった」。絶望的な気持ちになった。

24時間オンラインゲーム

息子がはまった「フォート・ナイト」のプレイ画面(本人提供)

 愛知県在住の50代女性は医療系のソーシャルワーカーとして時に夜勤をこなしながら、シングルマザーとして息子(18)を育ててきた。この春、大学生になった息子との歩みは、ゲームとの闘いの日々でもあった。そこには「アテンション・エコノミー」の世界で発展を遂げてきたオンラインゲームの負の側面が浮かび上がる。
 ゲームは息子が幼いころから意識的に遠ざけてきたものだった。熱中しやすい性格が災いし、依存するのを恐れていたからだ。
 だが、小学2年生になると「学校の友達がみんなやってる」「やってないと話が分からない」という息子に、祖父がクリスマスに携帯型ゲーム機「ニンテンドーDS」を贈った。息子はさっそく、流行していたアニメ「妖怪ウォッチ」のゲームで熱心に遊び始めたが、「3回クリアしたら飽きた」と息子は言った。
 依存の入り口となったのは、小学4年生のクリスマスにねだられて与えた家庭用ゲーム機「ニンテンドーSwitch(スイッチ)」だった。「友だちと集まらなくても、それぞれの家で遊べる」と息子が言った通り、それまでと違ってインターネットにつないで離れた場所の人ともオンラインゲームができた。
 息子が始めたのは対戦型オンラインゲームの「フォートナイト」。武器やアイテムを集めながら、オンライン上で他のユーザーと対戦するゲームで、当時、幅広い世代で大流行していた。「対戦ゲームは終わりがないんじゃないか…はまってしまったらどうしよう」。女性の不安は的中した。
 最初のうちは学校が終わってから夕飯まで、同級生を相手に遊んでいた。次第にネットでつながった「フレンド」と遊ぶようになると、瞬く間にゲームの時間が延びていった。
 女性が仕事に出ている間、息子はゲーム漬けになり、習い事や塾にも行かなくなっていた。ゲームをやめるよう注意しても全く聞く耳を持たず、無理にやめさせようものなら暴れて抵抗した。女性から逃げるように布団を被ってゲームを続けた。食事もとらず、お風呂に入らない日が増えていった。
 次第に朝起きられなくなり、5年生の夏休み前には学校を休みがちになった。オンラインゲームを始めて、わずか数カ月で息子の生活は激変した。準備を始めたばかりの中学受験も諦めざるをえなかった。
 「(ゲーム内で)イベントがあるから、家にいなきゃいけない」と、息子は1日の予定をゲームに左右された。「イベント」とは設定された時間にゲームに参加すると、特別なアイテムがもらえるなどの特典が得られる。「今しか手に入らない」という焦燥感をあおられ、息子はイベントの開催時間を常に気にするようになった。

母の奮闘、息子の意地

 女性も母としてあらゆる手って依存を止めようとした。「フレンドが詐欺で捕まったみたいで、うちのゲーム機も捜査対象になった」とうそをつき、ゲーム機を取り上げた。しかし、2カ月たつと、母の芝居は通用しなくなった。家のWi-Fiを切ってネットに接続できないようにすると、息子は近くの祖父母宅に移り、ゲームを続けた。
 ある時、息子と祖母との間で事件が起きる。生活を心配する祖母を疎ましく思った息子が、目覚まし時計を投げ付け、意図せず祖母の顔面に当たってしまった。電話をもらって駆けつけた女性は、目の上からだらだらと血を流す祖母を見て激怒した。「誰がやったの!」。女性に叱られている時も、病院に向かう祖母を見た時も、息子は黙ってうつむいていた。
 ある暑い夏の日に、家のクーラーが使えなくなった。さすがにゲームをやめて家から出るだろうと思っていたら、水をはった浴槽につかってゲームを続ける息子がいた。その姿を見て、「これはもう何を言ってもやめないな」と感じた。
 息子と向き合うため、女性は勤務時間を短くし、登下校に付きそうようになった。しかし、学校に向かおうとすると暴れる、逃げ出すの連続で続かなかった。
 女性は平静を装っているつもりでも、ストレスで感情は常に乱れていた。息子から「お母さん、いつも顔が怒っている」と言われた。昼夜逆転生活を送る息子を相手しながら、仕事をこなす生活も限界を迎えていた。

医療機関へ

親子が毎月通った久里浜医療センター。自然豊かな場所にある=神奈川県横須賀市で

 「ゲーム依存が病気ならば、根本的な治療をしなければいけない」。女性は本やネットでゲーム依存について調べるうちに、一つの結論に達した。息子を連れて、愛知県内の病院を回った。息子は物事に過度に集中してしまう注意欠如多動症(ADHD)と診断され、初診で投薬を勧められた。
 結局、3軒の病院を回ったが、依存への対処法は具体的に示されないまま。病院に対する恐怖心のみが息子に残った。
 その頃、ネット依存の専門治療外来を構えている「久里浜医療センター」(神奈川県横須賀市)の存在を知った。「僕は依存じゃない、病気じゃない」と拒否する息子を何とか連れ出し、センターに向かった。
 依存度合いを調べる初診を経て、センターに月1回通院する日々が始まった。愛知県内の女性の自宅からセンターまでは、車で休まず向かって5時間かかる。予定通りに行動するのが苦手な息子に合わせ、前日の夜のうちに出発した。ネットに接続しにくい移動中はゲームができず、助手席で眠る息子。女性はサービスエリアで仮眠を取りつつ向かった。
 仕事の疲れが重なりどうしようもなく辛い時もあったが、息子の前では「お母さんも遠出は気分転換になっていいよ」と明るく振る舞った。「帰りに三崎のマグロ食べよう」など、息子の好物で連れ出したこともあった。中学校に上がってもゲーム中心の生活は変わらず、センターは「最後のとりで」だった。

息子の変化

 センターでの治療は主治医の診察と、依存に悩む仲間と一緒に運動などの交流を通じて、ネット以外の楽しみを見つけるグループ活動が中心だった。
 センターに通い始めて1年以上がたった時、帰りの車内で息子がつぶやいた。「(主治医の)先生、いい人だね」。そのひと言に、息子の中で何かが変わり始めていることに気が付いた。
 女性自身も、ネット依存の当事者家族でつくるセンターの「家族会」に参加するようになり変化があった。徐々に依存から回復しつつある家庭、同じように苦しんでいる保護者。「悩んでいるのはうちだけじゃないんだ」と心に余裕が生まれた。
 「依存症とは時間をかけて上手に付き合っていくしかない」と考えを改めた。「何としてもゲームやめさせないといけない」という方針から一転、「ゲームはやってもいい。とにかく食事と睡眠がとれていればOK」と考えを改め、息子にも伝えた。
 いつしか久里浜に通う車内は、親子のコミュニケーションの時間になっていった。「見つめあわず、2人とも前を向いているのがよかったんでしょうね。普段は言えない話もすることができた」。女性は息子の成長に合わせながら、車の中でだけはちょっと先の将来の話もした。英語や数学など勉強は嫌いではない息子のために、高校に進学するメリットもそれとなく伝えた。
 「ちょっとゲームに飽きてきたな」。息子からそんな言葉が出たのもその頃だった。

第4部スタート

 ネットやSNSにさまざまな情報があふれ、人々の関心が経済的な価値を持つ「アテンション・エコノミー」。その実態を追う長期連載「アテンション・プリーズ! 関心がカネになる経済」では、これまで選挙やSNS型投資詐欺、性的ディープフェイクをテーマに取材を重ねてきました。
 第4部となる今回は、ゲームやネットへの依存がテーマです。スマートフォンなどで手軽にオンライゲームを始めることができるようになった今、生活に支障が出るほどゲームにのめり込む人が後を絶ちません。なぜそれほどまでに人を引きつけるのか。答えの一つはアテンション・エコノミーにありました。連載は全6回で、依存症の当事者や医師、自治体や教育現場にも迫ります。

【中日BIZナビ連載】アテンション、プリーズ! 関心がカネになる経済
 
「アテンション・エコノミー」という言葉を知っていますか?
 
 今、この仕組みが私たちの世界を大きく変えようとしています。直訳すれば「関心経済」。人々の注意や興味に経済的価値を見いだし、利益につなげるシステムのことです。
 
 交流サイト(SNS)の爆発的な普及により、そこにあふれる広告へユーザーの関心を集めれば、SNSを運営する企業は莫大な収入を手にすることができるようになりました。SNS企業はそのためにあなた好みのコンテンツを次々と表示し、スマホやPCの画面から離れられなくしています。
 
 コンテンツの投稿者も、多くの関心を集めればSNS運営企業から広告収入の一部を受け取れる仕組みになっているため、情報の真偽よりも刺激性を優先する誘惑から逃れられません。
 
 趣味や娯楽だけならまだしも、そんなアテンション・エコノミーの構図が選挙や投資、犯罪やポルノの世界にまで広がったら? 刺激的なコンテンツが、依存症と診断されるほど子どもの生活を飲み込んでしまったら? 
 
 連載「アテンション、プリーズ! 関心がカネになる経済」では、私たちが無料だと思っているSNSやネット利用に潜む危機を取材し、氾濫する情報との付き合い方やメディアの今後について考えます。
 
 (取材=杉藤貴浩、池内琢、岸友里)
 
第1部/選挙は副業最前線
 
(1)氾濫する政治系動画「ぬれ手で粟」 富を生み出す最前線に
(2)仕事帰りに選挙実況「どこでもぱっと」 結び付く政治とバズり
(3)反響するのは同じ声 発言加工の「切り抜き系」再生回数圧倒 
(4)揺さぶられる個人の選択 SNS運営プラットフォームの企業姿勢が世論左右
(番外編)「関心経済」危うい情報 静岡大・高口鉄平教授と連載振り返り
 
第2部/投資を調べただけなのに
(1)あふれる投資広告「一緒に勉強しませんか」 3カ月で失った7千万円
 
第3部/性的ディープフェイクの脅威
(1)ある日突然、「下着姿」に AIが容易にする画像加工
 
第4部/ゲーム依存という病
(1)小学5年生息子がオンラインゲームで夜も寝ず 「対戦型は終わりがない」母の不安的中(この記事)
  
中日BIZナビでは第1~4部の計18記事を公開しています。

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