【岸本加世子 我が道5】デビュー作のドラマ「ムー」 寝坊を樹木希林さんに見抜かれて…

[ 2025年11月5日 07:00 ]

歌手デビュー曲「北風よ」のジャケット
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 デビュー作となった異色のホームドラマ「ムー」は東京・赤坂のTBS旧社屋でリハーサル3日、収録2日のペースで撮影が進みました。

 第1話の収録が始まりました。張り詰めすぎて、初日だけでもういっぱいいっぱい。なんとか終え、家に帰るとどっと疲れが出たのか、そのまますぐに寝てしまいました。新人ですから翌日は午前9時にはスタジオに入らなければいけなかったのですが、目が覚めたらなんと11時!

 自分でもあまりのことに何が起きているのか理解できませんでした。当時は携帯電話もないし、連絡する手段もなし。どうしようと途方に暮れましたが、状況を把握したマネジャーさんは手慣れたもの。どなたか以前にもそういうことがあったのでしょうか。体調不良が遅刻の理由とばかり、偽の診断書を用意していました。

 それを見せながら共演者やスタッフ一人一人に謝って回ると、皆さんも「大丈夫?」と優しい言葉をかけてくださいました。しかし…最後の樹木希林さんにはすべて見抜かれていたんです。

 「あんた寝坊したんでしょ」

 ズバッと飛んできた直球に思わず私も「はい」と正直に答えていました。演出の久世光彦さんからはこっぴどく怒られましたが、この体験に懲りて、それから大きい遅刻はしていません。

 「ムー」で女優としての第一歩を踏み出すとともに、同じ年の1977年7月にはドラマ挿入歌の「北風よ」で歌手デビューも果たしました。私は演技だけでなく歌も自信がありませんでしたが、荒木一郎さんが作詞・作曲してくださった作品はとっても素敵でした。

 あいさつ回りも兼ねた全国キャンペーン。どこに行ってもワンコーラスだけは歌わせてもらいましたが、ある時、「フルコーラスで歌ってください」とのありがたいリクエスト。

 ところが、人前でワンコーラスしか歌ったことがなく、2番と3番の歌詞を覚えていなかった私は1番の歌詞を3度繰り返して歌いました。デビュー曲だというのに、とんでもない話です。

 78年5月から79年2月までは続編「ムー一族」が放送されました。創業90年の足袋屋さん「うさぎ屋」を舞台にしたコメディー仕立てのホームドラマ。私は引き続き、住み込み家政婦の「香川カヨコ」を演じました。

 郷ひろみさんと希林さんがデュエットした挿入歌「林檎(りんご)殺人事件」と「お化けのロック」が大ヒット。情報番組風のコーナーが始まったり、ラジオ番組と連動したりと、とにかく斬新でユニークな作りが大評判となりました。そして月に1度は生放送の回ができました。

 ◇岸本 加世子(きしもと・かよこ)1960年(昭35)12月29日生まれ、静岡県島田市出身の64歳。77年、テレビドラマ「ムー」で女優デビュー。以降、テレビ、舞台、映画、CMなどで幅広く活躍。ドラマ「あ・うん」、舞台「雪まろげ」、北野武監督の映画「HANA―BI」「菊次郎の夏」など代表作多数。著書に小説「出てった女」、エッセー「一途」など。

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