(上)【内田雅也の追球】それを果たせば、彼らは来る――本懐を遂げた歴史的快挙 

[ 2026年10月4日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神4─6広島 ( 2026年10月3日    マツダスタジアム )

<広・神(23)>試合後、スタンドのファンにあいさつする藤川監督(手前)ら(撮影・亀井 直樹) 
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 シーズン中、何度か「天の声」を聞いた。甲子園球場の、いやどこの球場の記者席にいても頭上から降ってくる。

 「それをやれば、彼らはやって来る」

 あれは誰の声だったのか。「それ」とは何か。「彼ら」とは誰か。
 映画『フィールド・オブ・ドリームス』で主人公の農場主が聞く声「それを造れば、彼が来る」と同じ思いでいる。トウモロコシ畑を整地し野球場を造った。すると“シューレス”ジョー・ジャクソンをはじめ、無念の思いで球界を去った選手たちが現れる。

 マジック1で迎えた広島でデーゲームで敗れ、ナイターの巨人敗戦を待っての優勝だった。いまはわかる。「それ」は「打倒巨人」を果たしての優勝、そして連覇だ。「彼ら」とは猛虎の先人たち、あるいは苦難の年月をともに過ごし、支えてきた無数のファンだ。

 映画では第2の声として「彼の痛みをいやせ」と続く。長い間、心に負った傷と痛みをいやす優勝だった。彼らはいま、歓喜の声をあげている。

 もう何度も書いてきたが、阪神は本当の意味で巨人を倒して優勝した経験がなかった。「伝統の一戦」をまみえるライバルだが2リーグ分立後、優勝した7度のシーズン、巨人は3位以下に沈んでいた。逆に巨人優勝・阪神2位は17度に及ぶ。巨人V9の後半は6年で2位が5度。「万年2位」とからかわれた。

 阪神を愛した作詞家・阿久悠が1997年、スポニチ本紙に連載した小説『球心蔵』は忠臣蔵仕立てで阪神を赤穂浪士になぞらえた。シーズン最終戦で巨人を破り優勝し積年の恨みを晴らす。

 阿久の空想を国際日本文化研究センター所長・井上章一は『阪神タイガースの正体』で<アンチ・ジャイアンツを信条とする阪神ファンの典型的な妄想>と称した。鶴岡一人が率いた南海(現ソフトバンク)は1959(昭和34)年、杉浦忠の4連投4連勝で巨人を破り日本一となった。<南海は御堂筋のパレードで泉岳寺への凱旋めいた感動を味わった><阪神ファンの忠臣蔵幻想は残存し続ける>。つまり、打倒巨人を果たしての優勝こそ阪神の本懐なのだ。=敬称略=(編集委員)

                    =(下)に続く=

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