「ブラッサム」史実と創作の結合 宇野千代作品に書かれていない事を描く面白さ

[ 2026年10月28日 09:00 ]

連続テレビ小説「ブラッサム」の秋山格之介(高良健吾)と葉野珠(石橋静河)(C)NHK
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 【牧 元一の孤人焦点】10月28日放送のNHK連続テレビ小説「ブラッサム」第23回で、主人公の葉野珠(石橋静河)と作家の秋山格之介(高良健吾)の初対面が描かれた。

 珠のモデルは作家の宇野千代、秋山のモチーフは作家の芥川龍之介。宇野は作家として世に出る前、接客係として働いていた西洋料理店「燕楽軒」で、芥川に出会っていたことを著書「生きて行く私」に記している。

 ドラマで描かれる西洋料理店の名は「悠樂軒」。珠は秋山格之介の作品を知っているが秋山の顔は分からない。接客係としてテーブルにコーヒーを運ぶと、秋山は「八つ、お願いできるかな」とつぶやく。珠は「八つ、あ、お砂糖ですね…えっ、八つ?」と驚きつつ、カップに角砂糖を入れるが「甘すぎませんか?」と素朴な疑問を投げかける。秋山から「ドロドロのを飲むと頭がさえるんだ。徹夜で締め切りに間に合わせたからね」と聞くと「へ~、作家さんですか!?」と感心。後で先輩からその人物が秋山格之介であることを知らされる。

 制作統括の村山峻平さんは「秋山の独特の雰囲気、この人は何なんだろう?と思ってもらえるような映像的な面白さ、岩国から出て来た珠が東京という新しい世界で誰かと出会う高揚感を出したいと思いました」と話す。

 珠と秋山の出会いは史実に基づくものだがコーヒーに角砂糖8個は創作。芥川の小説「羅生門」「蜘蛛の糸」はここでは「羅城門」「蜘蛛の巣」に。現実に虚構が入り交じる面白さがこの作品にはある。

 村山さんは「史実が何割、創作が何割ということはあまり考えていません。宇野さんが書いたことは史実というよりエピソードとして捉えています。そのエピソードを使うかどうかは、葉野珠の物語を伝えるためにそれが良いかどうか、珠の勇気ある一歩を描くためにそれが良いかどうかという判断です。皆さまにご覧頂いて『あれは創作だと思ったけれど史実だったんだ!』と思ってもらうことはある意味で皆さまとの接点、双方向性になると考えています。われわれは文学作品に敬意を抱いています。どうしたら今の時代の人たちに文学を自分事として感じてもらえるか、面白いと思ってもらえるかを探りたいと思っています」と語る。

 文学作品によって知ることができる宇野千代の人生は極めて興味深い。入念な取材を基に人間の機微を描いた小説「色ざんげ」「おはん」や自身の人生を書いて100万部を超えるベストセラーとなった「生きて行く私」。日本初のファッション雑誌「スタイル」の創刊。着物のデザインと販売。多額の借金の返済。4回の結婚と離婚。取材をきっかけとした同棲。旺盛な好奇心とたぐいまれな行動力。享年98。幅広く奥深いが、それらをドラマとして描き切るのは容易なことではないだろう。

 村山さんは「宇野さんが書いた物語は確かに面白い。でも、85歳の宇野さんは読者の背中を押すため、自分のことを何でも『へっちゃら』という形で書いています。その境地に達した宇野さんですら、その時々はとても大変だったろうし、いろんな感情にさいなまれたはず。『へっちゃら』と言えるようになるまでの過程こそがドラマになる。その創作の難しさと面白さがあります」と明かす。

 このドラマには次のような人たちも登場する。作家の尾崎士郎をモデルにした西尾一路(染谷翔太)、吉屋信子をモデルにした土橋風子(尾野真千子)、林芙美子をモチーフにした森佐代子(堀田真由)、画家の東郷青児をモデルにした夏井銀児(錦戸亮)。その顔ぶれは多彩。今後どのように史実と創作が混ざり合って物語が展開していくのか。見どころは多い。

 ◆牧 元一(まき・もとかず) スポーツニッポン新聞社編集局文化社会部。テレビやラジオ、音楽、釣りなどを担当。

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