本文へ移動

成長ってなんだろう

2026年10月24日 05時05分 (10月26日 17時07分更新)
 この松茸(まつたけ)の時期は、献立の中で必ずお出しするものが何品か決まっているのと、仕込み時間が普段よりも短くなるのとで、私の頭に空間ができ、余計なことばかりが浮かんできます。
 例えば、家の仕事をするようになって丸8年が経ったのに、なにも成長していないのではないかと恐れる気持ち。周りの友達はいろいろな経験を重ねて成長し続けている(ように少なくとも私には見える)のに、私はずっと同じ場所にとどまったまま足踏みしていただけではないか、と。しかし冷静に考えれば、8年前と今の自分を比べてできるようになったことはたくさんあります。小松菜とほうれん草の違いが分かるようになったし(本当にそのレベルでした)、天ぷら粉と小麦粉を使い分けられるようになったし、味見をした時にどの調味料がどのくらい足りないかをイメージできるようになりました。そう、成長していないはずはないのです、比較対象を自分にすれば。
 さらには「成長とはなにか」ということもあります。例えば「高度経済成長期」では、個人の平均所得率が上がったり、生活が便利になっていったりした反面、環境破壊も問題に上がるようになりました。余談ですが、この間読んだ『生類の思想 体液をめぐって』(藤原辰史著)の中で、「環境」という言葉への違和感がつづられていて「『環境破壊』は、人間『または』そのほかの生物への影響を与えるのではなく、人間とそのほかの生き物との違いをほとんど問わず、それらの生存条件もろとも破壊していくものである」とあり、深く共感しました。
 誰が、どこから見て、どう成長なのか。「成長」とはもしかしたら、地球に住む人間の間だけの、時間的にも視野的にも狭い価値観でとらえた感覚でしかないのかもしれない。だとしたら「成長した」とか「成長してない」とか、どうだっていいと思えてきます。
 逆に、変わらずに在ることの難しさ。毎日同じように出汁(だし)をとって味をつけているつもりなのに、昨日決まった味が、今日決まらない。
 何年か前に見学させてもらった大阪のごま屋さんの工場で代表の方が言っていました。「魚が一匹一匹違うように、ごまも違うんです」。聞き流しそうだったけれど、数秒後に意味を理解して気が遠くなりました。あの一粒一粒にも個体差があるのかと。だから、焼き時間も機械に全部任せず毎回味見をしながら微妙な差を調整されていました。
 同じようでも、同じ日など一度もない。同じことをしても同じにはならない。と、いうようなことをぐるぐる考える日々です。(湯宿経営)
なのはな日和

 石川県珠洲市で湯宿を営む坂本菜の花さんの連載コラム。北陸の天気のようにままならない日々を、自分らしく暮らしていく記録です。

なのはな日和

 石川県珠洲市で湯宿を営む坂本菜の花さんの連載コラム。北陸の天気のようにままならない日々を、自分らしく暮らしていく記録です。

関連キーワード

おすすめ情報